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    STEP3 住友電工の社会への成果プロジェクトストーリー

超硬ドリルの未来を賭した新工場。中国量産工場新設プロジェクト

超硬ドリルの未来を賭した新工場。中国量産工場新設プロジェクト

国内市場からグローバル市場へ。戦略的工場構想。

上海から西に160km。モデル工業都市として発展めざましい常州市に、住友電工硬質合金(常州)有限公司はある。2011年10月、住友電工ハードメタルがこれからのグローバル戦略を担う最前線基地として新設した、超硬ドリルとダイヤ焼結体チップの生産工場だ。総敷地面積10,000㎡、従業員数約120人。ここで生産された製品が、まずは中国国内。そして将来は全世界へ向けて出荷される。
住友電工は従来、超硬ドリル分野においては、その高い技術力で国内市場を牽引してきた。しかし、グローバル市場への事業展開を図るためには、これまでの概念を覆す製品開発が必要となる。そのための最前線基地として新たに建設されたのが、この常州工場だった。
工場立ち上げの具体的な検討が始まったのは、2010年春。グローバルマーケティング部をはじめ、営業、開発、そして生産技術と、さまざまな部門のメンバーが集められた。目指すはグローバル市場で戦える超硬ドリルだ。しかし、これまで性能最優先で開発を進めてきた住友電工にとって、グローバル市場はターゲット顧客、製品ラインナップ、価格、販売方法など、すべてが未知の世界だった。そこが見えなければ、開発も進められない。「グローバルマーケティングのネットワークを用いて、世界中に散らばっている担当者の中から現地事情に詳しいメンバーに依頼し、各国で販売されている他社製品のベンチマーク情報を収集しました。そして、それを基に技術や営業のメンバーとミーティングを重ね、求められる性能、価格を導き出していきました」(大國) このプロセスを通じて作るべきものがおおよそ見えてきた。次は、いかに作るか。技術部門にバトンが渡された。ここで、想像以上の難敵が彼らの前に立ちはだかることになる。「コスト」だ。

開発×生産技術。連携、そしてせめぎ合い。

超硬ドリルのグローバル市場は、熾烈な価格競争の中で各社がしのぎを削っている。勝負を挑むには、並大抵のコストダウンでは追いつかない。ドリルの形状設計を担当する栗塚と、生産技術を担当する西は、当初より密に連携して策を練った。 「コストダウンを図る一番の方法は、ドラスティックな工程統合です。しかしドリルというものは従来、性能を追求してきた結果、工程増やし複雑な形状にしてきた経緯があります。それを統合できるような製品設計で、かつ他社製品を上回る性能を出すということは、これまでの常識からは考えられないことでした」(栗塚)
それでも、やるしかない。ベンチマーク調査で明らかになった性能を満たす前提で、どの工程が見直せばよいのか・・・。栗塚と西が着目したのは、ドリルの先端形状だった。これまで別工程で仕上げていた部分を統合し1工程で済ませよう──。
とはいえ性能を犠牲にするわけにはいかない。栗塚は、求められる性能要件ギリギリのところで形状の落としどころを探った。数十ミクロン単位の調整である。設計しては西に確認をとり、実現性を問う。「だめだ、この形状では統合が難しい」「しかし、性能との両立を考えるとこの設計は譲れない」・・・。開発と生産技術、両方の立場からのせめぎ合いにより、さらに高いレベルでの妥結点を見出していく。性能至上主義で設計に携わってきた栗塚にとっては、かつてない経験だ。それでも栗塚は根気強く調整を重ね、ついに形状設計をかためた。 同時に、西は生産技術面からコストダウンに挑んでいた。ドリル1本作るのにどれだけの時間を要するか。それがコストそのものになる。 「加工時間を詰めるには、ドリルを削り出す加工機のポテンシャルが何より重要だと考えました。そこで、性能、導入コスト、サポートなどを勘案しながら、国内外問わずさまざまなメーカーの加工機を検討していきました」(西) 中でも西が目をつけたのが海外メーカーの加工機だった。円高で導入コストを抑えることができ、性能も合格ライン。加えて、操作ソフトが優れていることから、現地のオペレーターでも簡単に扱える点も魅力だった。 とはいえ、莫大な投資を要する新工場プロジェクトゆえに、失敗は許されない。西は机上検討に加え、自ら現地へ飛んでテスト加工に臨んだ。結果は上々。想像していたよりも、ずっと高性能だった。これなら、栗塚の求める形状を実現した上で、工程統合も見込める。ただし、住友電工の国内生産工場では導入した実績がない。従来路線に乗るか、それとも新しいチャレンジを試みるか。西が選んだのは後者。チャレンジなくして、無謀とも思えるコスト目標の達成もない。そう考えたのだ。 こうして、この加工機を用いた工程を考案。品質管理部門からもアドバイスを受けながら、性能要件をクリアする生産技術を確立していった。

物流のプロに激闘を強いた中国通関事情。

素材を仕入れ、加工し、出荷する。そうしたメーカーの事業の中で欠かせないのが「ロジスティクス」、物流の視点だ。特にそれが国境をまたぐ事業ともなれば、いっそう複雑さと重要性を増すことになる。この常州工場プロジェクトも同様だった。まして通関の難しさは世界に聞こえる中国。そこでロジスティクスの一切を任されたのが、岳だった。
「このプロジェクトはこれまで自分が携わってきたものと異なり、まったくのゼロからのスタート。そのためまず、工場のトップを務める総経理(社長)と時間をかけて話をし、求められている物流のありようを確認しました」(岳) 総経理とイメージを共有した岳は、その後、官公庁に対して各種認可の手続きを行うとともに、輸入・輸出に係る業務フローを一から構築した。物流とは、リスク学。起こりうるリスクをどれだけ想定でき、いかに回避するかが勝負だ。そのため、素材や設備の輸入
に際しては中国の事情を、完成品の輸出に際しては中国に加え、輸出先である各国の事情を熟知しておかねばならない。 その意味では、岳もプロ。とりわけ母国・中国の事情は十分心得ている。その岳のスキルと人脈が十二分に活きた局面があった。西らが準備した生産設備の荷が現地の通関を通らず、1カ月もの間、港で眠ってしまったのだ。本来は業務外だったにも関わらず、「ここは自分が行かねば収まらないだろう」と岳は自ら手を挙げ、すぐに現地へ飛んだ。そして、さまざまな政府機関を訪ねては調整を図り、徹夜で通関資料を作り直しては当局と交渉した。そうしたハードなネゴを1週間続け、ようやく通関を通すに至った。しかしこれがきっかけで、現地の優良通関業者とのコネクションができ、以降は1週間という異例のスピードで通関を通す体制を整えた。

初めての製品出荷で産声を上げた工場。

2011年9月。生産設備を整えた工場は、試験生産を開始する。とはいえ、まだまだこれからだ。限られた数量の試作品を作るのと、一定以上の品質をクリアする製品を量産するのとではまるで違う。試作では発生しなかった不具合が、量産では起こる。その解消に取り組みながら、量産工場として稼働するにふさわしい品質を確保していくのだ。もう一人の生産技術担当である多尾田は、まさにその品質管理を日本からサポートする役割を担っていた。
「関わり始めたのは、入社してまだ半年も経たない頃。何から手をつけていいのかわからない中で、周囲の人に片っ端から聞いて必死に取り組みました」(多尾田)
サポート要請が入るのは、大先輩である現地担当者からだ。不良品の基準設定や、品質向上のための資料作成など、
自分とはけた違いに高い技術力を持つ先輩からのリクエスト。懸命に勉強しなければ応えられない。しかし、こうした多尾田らの頑張りがあってはじめて、工場も晴れて本稼働の日を迎えることができるのだ。 そして2012年6月。プロジェクトのメンバーらが心血を注いで立ち上げた常州工場から、初めての製品が出荷された。モノは、出荷されて、すなわち荷受けするお客さまがいて初めて本当の意味で「製品」となる。生産拠点として、常州工場が正式にスタートを切った瞬間だった。

どこで作られようと「Made by SUMITOMO」。

工場が立ち上がり、量的拡大が期待できるボリュームゾーンをねらったグローバル戦略は第2フェーズに入った。「販売」だ。苦労を重ねて立ち上げたプロジェクトだっただけに、何としても利益を出さなければならない。超硬ドリル激戦エリアでは、十分な供給量を確保して競合に打ち勝っていく。また、超硬ドリルが根づいていない中国においては、自分たちが市場を創っていくのだ。グローバルマーケティングを担当する大國は、モノづくりに絶対的な自信を持っているからこそできるプロモーションを展開した。他社製品との切削比較テストのデモンストレーションを徹底して繰り広げ、圧倒的に優位な性能を備えていると訴えたのだ。「そうした取り組みの甲斐あって、製品の品質は市場から好評を得ています。パートナーである販売代理店からは『これまでのMade in Chinaという既成概念をひっくり返してあまりある性能』と評され、競合製品から
当社製品に切り替えてくれるところも出てきています」(大國)そうしたなか、大國がアピールしているのは「Made by SUMITOMO」であること。作られるのがどこであろうと、そこには住友電工のモノづくりにかける想いと、まちがいのない品質が詰まっている。大國の自信であり、確信でもあった。まだ産声を上げたばかりの常州工場。世界市場でそのプレゼンスを確かなものにするには、少なからぬ年月を要するかもしれない。しかし、メンバーの奮闘の末に踏み出した一歩から、前へ前へと力強く歩を進めていく限り、「Made by SUMITOMO」が超硬ドリルのグローバルスタンダードとして刻まれる日は必ずや訪れるだろう。

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