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    STEP3 住友電工の社会への成果プロジェクトストーリー

この世界に、安心・安全なエネルギーを レドックスフロー電池開発・普及プロジェクト

この世界に、安心・安全なエネルギーを。レドックスフロー電池開発・普及プロジェクト

試行錯誤と挫折の日々を越えて。

東日本大震災に起因する福島第二原発事故を契機に、太陽光や風力をはじめとした再生可能エネルギーの有効活用が求められるようになった。そこで大きな注目を集めているのが、住友電工のレドックスフロー電池だ。開発の歴史は長く、1985年に遡るというのだが、その道のりは決して順風満帆なものではなかったようだ。1998年から同開発プロジェクトに参画し、チームリーダーとしてプロジェクトを牽引してきた筒井康充は、その苦労をこう話す。
「電気が自由に貯められる世の中を実現する。この技術の将来性に大いに期待していたが、現実はそう上手くはいかないもの。トラブルシューティングに追われ、設計への逆戻りを繰り返していましたし、一時は事業性不透明ということで事業化中止の憂き目を見たこともあります。度重なるチーム縮小で、毎月のように送別会が開かれるような状況の中で、チームのモチベーションを維持し、次に何をすればよいのか……。とにかく悩み続けましたね」
転機が訪れたのは2010年代。再生可能エネルギーへの転換が叫ばれる中、電力貯蔵技術が再び脚光を浴びるようになったのだ。逆境にさらされても、あきらめずに努力を続けていた筒井らのプロジェクトは、急激に動き出していくことになる。
「レドックスフロー電池は、電気化学の技術だけでは成り立たないもの。電解液を循環するための機械設計、熱設計をはじめ、電力設備としての電気設計、パワーエレクトロニクス、さらには大型設備を設置する上での土木、建築技術まで必要となります。素材、製造、品質など多様な専門家に開発へ参画してもらうことで、抜本的な技術改良を目指しました。前例のない製品開発であったため、予想しえないような問題も多発しましたが、原因、メカニズム究明と対策、検証を繰り返すことで乗り越えてきました。どのような逆境においても決してあきらめない姿勢とこの技術を愛する心が、道を切り拓いてくれたと信じています」

世界初! 安定して動作するマンガン系レドックスフロー電池。

同プロジェクトが抱える最大の課題。それは、コストをいかに抑えるかであった。レドックスフロー電池は、バナジウムなどのイオンが溶解した電解液を循環させ、酸化還元反応によるイオンの価数変化を利用して充放電を行う。しかし、一般的に電解液に用いられるバナジウムの原料は資源の調達が難しく、高価であるというデメリットがあった。そんな課題を解決すべく、新たな電解液の開発に取り組んだのが董雍容である。
「着目したのは、安価で高い酸化還元電位を有するマンガン電解液。ただし、充電状態のマンガンイオンは水溶液中では不安定であり、マンガン酸化物を生成、析出するため、レドックスフロー電池への適用が困難でした」(董)
彼は添加剤によって、このデメリットを解消し、かつてない電池を実現しようと考えた。試行錯誤を繰り返し見出したのは、チタンイオンがマンガン酸化物の析出を抑制するという事実だった。
「この原理を用いて、世界で初めて安定的に動作するマンガン系レドックスフロー電池を実現することができました。数えきれないほどの失敗をしましたが、それでも心が折れることはありませんでしたね。エネルギーと環境は密接に関係し、切り離して考えることはできないものです。電力系統を安定化させる優れた電池の製品開発を通じて社会に貢献できた。このプロジェクトは私に大きな誇りを与えてくれるものでした」(董)
董をはじめとしたエンジニア一人ひとりの努力によって、住友電工のレドックスフロー電池は、より高性能なスペックを実現することができた。その根底には、筒井らが貫いてきた決してあきらめない姿勢と製品への想いが息づいていることは言うまでもない。

再生可能エネルギーの未来を切り拓く。

革新的な製品の開発に成功した住友電工。その製品を実用化につなげるべく、大規模な実証実験もスタートしている。北海道電力と協同で行われた実証試験は、その代表的なもの。社会から大きな注目を集め、各メディアによって大きく報じられた。これら社外実証設備における電気関係の設計・立上げを担当したのが、電気設計グループの矢野敬二である。
「安平町にある南早来変電所に大型蓄電池システムを建設し、実証実験を行いました。レドックスフロー蓄電池の運用例としては、世界最大級の規模となります。熱交換器開発、システム設計、交直変換装置設計など多岐にわたる業務を担当しましたが、特に苦心したのはお客様との折衝でした。同試験は基幹変電所に蓄電池を接続するという過去に事例のない案件であり、適用規格、運用方法を含めて双方が納得、安心できるルールづくりが必要だったのです」(矢野)
いわゆる“電池屋”として、レドックスフロー電池の得意とする運転方法を勧めたくても、実際に発電・供給を行う顧客の理想とはかけ離れていることもある。矢野はあえて電池屋としての発想を止め、ユーザーの視点から欲しい機能を整理し、最適なトレードオフの関係を築き上げた。さらに試験を経て、ブラッシュアップされた電池の仕様をドキュメント化。次案件、標準化に繋げられるように整理した。こうした細かい作業の一つひとつがレドックスフロー電池の普及とよりよい価値発揮につながっていくわけだ。
「この試験を通じて、再生可能エネルギー導入拡大の可能性を広げることができたと思っています。また、得られた知見やノウハウは、大容量電力貯蔵用としての蓄電池の可能性を広げてくれるものでした。さらに、電力系統安定化用途などの社会インフラを支える設備の開発やBCP対応に携われたことは、今後に生きる大きな財産になると考えています」(矢野)

この技術は、日本のプレゼンス向上につながる。

住友電工のレドックスフロー電池には、大きく3つの特徴がある。再生可能エネルギーの大量導入を可能にする大容量化と高い安全性、高速かつ激しい充放電の繰り返しに耐え得る長寿命。これらは、近年急速に普及が進み、韓国や中国などの海外勢との競争が激化しているリチウムイオン電池よりも優れており、独自の強みであるという。奥田文彦が所属する新規事業マーケティング部では、これらの強みを生かし、新たな市場の開拓に挑んでいる。
「“高速かつ短時間の充放電”と“長時間の充放電”の両方が必要となる“ハイブリッド用途”に最適であることがレドックスフロー電池の強みです。再生可能エネルギーの導入比率が拡大すれば“ハイブリッド用途”へのニーズは確実に顕在化するでしょう。この用途は、近い将来、北米、欧州等を皮切りにワールドワイドに大きな成長が見込まれています」(奥田)
目標は、20年度に1,000億円規模の事業に成長させること。奥田は精力的なマーケティング・プロモーション活動を展開すべく、世界中を飛び回っている。各国で、電力システムの制度設計、クライアント、協業パートナーは全く異なるため、一回の出張で、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど何カ国も巡回することもあるそうだ。
「私たちの仕事は、当社のプレゼンス向上はもちろんですが、海外勢がリチウムイオン電池で先行する大容量蓄電池市場において、日本のプレゼンスを向上させる重要な意味も持っています。経済産業省や、各国の政府関係者とも密に連携してこの技術を世界に発信するなど、非常にスケールの大きい仕事を任せてもらえていることは、重責を感じつつも、強いやり甲斐を感じています。市場の立ち上がりはまだまだこれから。全力で与えられた使命を果たしていきたいと考えています」(奥田)

これこそが、生きがいだ。

本格的な事業化はまだ先ではあるものの、住友電工のレドックスフロー電池は確実に成功へのステップを踏んでいる。日本経済新聞社が主催する「2015年日経優秀製品・サービス賞」においては「最優秀賞 日経産業新聞賞」を受賞するなど、社会からの評価・期待は並々ならぬものがある。同プロジェクトに長年かかわってきた筒井も手ごたえを感じているようだ。
「エネルギーを取り巻く環境変化にマッチしたという外的要因は大きいですが、長年積み重ねてきた技術が飛躍の機会を得たことを幸せに思います。この技術は人類の試練であるエネルギー・環境問題に対する解決手段である。私はそう信じています。レドックスフロー電池を大きな事業へ成長させ、世の中をよりよくする価値を提供する――。この仕事に携わることができたことは、私の生きがいにもなっているんです」(筒井)

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