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広報誌 SEI WORLD 2012年

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SEI WORLD 2012年 08月号(vol. 419)

世界を変えた、光通信用モジュール。

西江 光昭

情報化社会を支える光通信技術。その黎明期から光通信用モジュールの研究開発に力を注いできたのが、当社フェローの西江光昭。最前線に立つ技術者こそが知る光通信の歴史、そして技術開発の醍醐味を語ります。

武田信玄も使った!?光デジタル通信

  光通信の歴史は「のろし」にまで遡ります。煙が出ているか出ていないかの0か1で情報を伝える、極めて原始的なデジタル光通信です。のろしはやがて手旗信号となり、0と1の信号を組み合わせ、それぞれに意味をもたせることで発達してきました。

  そして光ファイバの誕生により、飛躍的な進歩を遂げました。近代化の始まりです。1966年にチャールズ・カオ博士の論文発表によって、「低ロスで遠くまで情報を送れる光ファイバの予見」がなされ、これをきかっけに’70年から世界中で光ファイバの研究開発が始まりました。以前から研究を進めていた当社も、本格的な取り組みを始めたのです。

  大学院で光通信を研究していた私は、’74年に住友電工に入社しました。光ファイバの研究開発を進めている住友電工でも、光通信のシステム開発の船頭はまだいないはず。自分がそれを担いたい、そんな思いを抱いていました。

 

世界初の双方向光CATVシステムを完成

  入社直後の’70年代後半、光通信のエポックメーキングとなるプロジェクトが立ち上がります。東生駒映像情報システム「Hi-OVIS」です。通商産業省(現・経済産業省)のビッグプロジェクトで、光ファイバを使ってセンタと130軒の家庭をつなぎ、映像の双方向通信を行う世界初の試みです。当社は光ファイバと送受信機の開発を受注し、世界初の双方向光CATVシステムを完成させました。光源となるLEDひとつが20万円する時代。各社が実験室で少数の試作をしていた時に、当社は実使用に耐える部品の開発で、光通信技術を大きく進展させることができました。

  ’78年に開局した「Hi-OVIS」を視察したのが、『第三の波』の著者アルビン・トフラーです。視察後に情報化社会を予見したこの本が出版されたことからも、システムの先進性がよくわかります。

 

デジタル伝送技術の開発をスタート

  ビッグプロジェクト後はデジタル時代の到来を予想し、デジタル伝送技術の開発をスタート。そして’70年代末には、光伝送用モジュール「スミリンク」を製品化しました。これが光データリンクのデビューです。

  光データリンクとは、光通信を行う際に使われる最も基本的な部品のひとつです。図1のように、光送信モジュールと光受信モジュールで構成され、伝送路に光ファイバを使います。光送信側では、電気信号を光信号に交換し、光ファイバを通してその信号を受け取る光受信側では、光信号を電気信号に変換する機能を持っています。今やブロードバンドネットワークのいたるところで使われていますが、世界で初めて光通信用の光電気変換モジュールを「光データリンク」と命名したのは、住友電工だと思われます。

図1:光ファイバ通信システム

光ファイバ通信システム

 

「できないはずはない」新製品を開発

  発売当初スミリンクは苦戦しましたが、’80年代にLANが出て少しずつ需要が拡大しました。しかし、欧米の先行有力メーカーと戦うには、まだ力不足です。せっかくの提案もカスタムICができないために他社に受注を奪われるなど、世界市場での苦しい闘いが続きました。

  そこで社内のメンバーで議論し、ユーザが使いやすい画期的な製品を作ろうと開発に乗り出したのが「スーパースミリンク」です。LSIなどの半導体素子に使われるモールド樹脂で光部品を固めるという新しい試みです。それまでのネジと半田付けが必要なモジュールとは違う信頼性の高い製品で、競合他社に差をつけたい。しかし、無謀なプロジェクトだと言われました。150度以上に熱した樹脂でのモールドなど、精密な光部品でできるわけがないという声です。

  「できないはずはない」。私たちは人手をかけ、ICの開発と光精密部品の設計、そして樹脂モールドの実装開発を同時進行で行い、2年間にわたって取り組みました。

  ’90年3月ついに完成。アメリカ西海岸から東海岸まで新製品キャラバンを実施したところ、大好評でした。「こんな無謀なことにチャレンジする住友電工は素晴らしい会社だ」と言われるほどでした。

 

開発から10年強、世界のトップメーカーに

  ところが、新製品を出した直後に、欧米の有力メーカー4社が互換性のある製品を出し、またしても負けそうになります。私たちはユーザの基板に工夫をしてもらうことにより、大手製品と互換性が保てることを見出し、拡販を図りました。この方策が成功し、ようやく世界シェアトップのユニークな製品を開発することができました。

  その後、公衆通信用のモジュールに開発の軸足を移しましたが、ベースになったのは、やはりモールド技術です。ちょうどこの頃、公衆通信システムの世界標準が決まり、当社も小型低消費電力化を武器に再び世界シェアナンバーワンを獲得。光データリンクの開発を始めて10年強、’90年代半ばでようやく世界のトップメーカーの仲間入りを果たすことができました。

 

技術開発は生物の進化と同じ

  現在私は光通信の研究開発の現場から離れ、材料技術の研究開発を広く見ていますが、やはり技術開発は面白いと思います。不変の真理を追究する学問に対して、科学を組み合わせて「こんなものを作りたい」という人間の思いがあるからです。だからこそ、同じものを作っても必ず個性が出る。それは会社と技術者の個性であり、両方のDNAが組み合わされて、初めて進歩した技術や製品ができる。技術開発は、生物の進化のようなものではないでしょうか。

  住友電工のDNAは、着実にまじめに物事を進める力だと思います。また、技術を次々と発展させ、新しいものを生み出していくDNAもあります。

  私が作ってきた製品も住友電工のDNAの中で発展し、私自身のDNAを組み込んで生まれました。そんな技術開発の醍醐味を、若い技術者の皆さんにも感じて欲しいと思います。激しい環境の変化が続く中、今後も環境に適合した技術が生き残っていくでしょう。決してあきらめず原点からずれることなく、やるべきこと、やりたいことは何かを常に振り返りながら取り組んでください。

 
 

2000年 小型着脱可能型(Small Formfactor Pluggable)光データリンク

 

1995年 公衆通信網(SDH)用樹脂モールド型光データリンク

 

1991年 FDDI-LAN用樹脂モールド型光データリンク(左)、送受信部クリアモデル(右)

 
 

1983年 スミリンク初期モデル(トークンリングLAN用)

 

1978年 Hi-OVISに使用された光送信サブアセンブリ

 

 

PROFILE

西江 光昭  Mitsuaki Nishie

1974年の入社以来、ほぼ一貫して光通信用モジュールの開発に従事し、世界初の双方向光CATVシステムも完成させた。伝送デバイス研究所長、解析技術研究センター長などを経て、現在は、材料技術研究開発本部 担当技師長。2006年から当社フェロー。

■横顔

趣味はゴルフとオーディオ。晴れた日はグリーンか練習場へ、雨の日は自作オーディオでジャズを聴く。ラジオ少年時代からモノづくりが好きだった。「ある程度大きなオーディオで聴くと気持ちいいですね」。耳を傾けるのは、主に’50年代、’60年代のスタンダード。

・「スミリンク」は、住友電気工業(株)の商標です。

 
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